網走地方にとってなぜ藻琴山が大切なのか?


【水編】

網走などへの水道水は藻琴山麓からいただいています。

 

第二水源地・金嶺水の様子です。
地下からの湧水を取水しています。

ここから30km以上、水は旅をします。

 

導水橋。(川を越えているところです)

 

冬の厳寒期には、地中の導水管が破損や破裂をして断水することがあります。
導水管の更新、維持管理は欠かせません。

なによりもおいしい!

  通年、水温8℃。体内の活性酸素を除去する酸化還元電位にも優れています。

  昭和30年前後に作られた仕組みですが、もし、近くは周辺湖沼に恵まれている網走がそれらの表面水をダムや取水塔で利用していたなら、いまの水環境や水道水質はどうなっていたでしょうか。

 ひとつの影響は、藻琴川の水量に現れました。

 

この水源地帯にあたる大空町(旧東藻琴村)は、当時、全国にあった村と名のつく自治体の中で、もっとも早く、平成5年、下水道が網走市と連携して完備されました。


【土壌編】

阿寒の山々の噴火のおかげで、泥炭ではなく、火山灰性土壌があります。

 

東オホーツク地方の土壌分布図です。
(北海道リモートセンシング会議より)

火山灰土壌である高台地帯の350圃場の土壌分析を実施した結果、総合的に、リン酸の流失及び欠乏があり、カリは蓄積過剰が少なく、また、一部、銅の欠乏が見られました。
塩基置換容量(CEC)が良好であり、PH維持を基本とした石灰の投入、カリに見合った苦土(マグネシウム)投入、有機質投入による生産性向上が期待できます。

排水性にも優れ、長いもなどの根菜類の栽培にも適しています。

(平成10年度 末広地区土壌分析結果より)

 

【農地カルテと衛星画像解析】

栽培履歴や土地改良、土壌分析結果など、地域のおよそ2500筆が地図情報システム(GIS)にて一元管理されていました。
これらにより、的確な圃場面積、適正な施肥や輪作体系、さらには衛星画像と組み合わせることで、肥料や生育ムラ、収量予測などが可能となりました。
 (左図は、秋まき小麦圃場の一部)

 

これらに至る背景として、昭和54年に農業技術センターが設置され、北海道内でも唯一、無料で土壌分析が実施できる体制ができ、平成9年に農業振興センターへ進化し、前述の地図情報システム、施肥設計システム、さらにはJAを主体に堆肥や液肥センターが作られ、地域全体での「総合的な有機物の循環による土づくり」が推進されていました。

現在の言葉に置き換えますと、「持続可能な地域社会や農業づくり」の一環であったものと考えます。

酪農(乳牛)振興や発展に欠かせない牧草地は、藻琴山麓の国有林およそ540haが払い下げられ、開墾、土地改良されました。竣工は昭和42年、パイロットファームと呼びます。

また、その後の生乳調整の有効活用としてチーズをはじめとした乳製品の開発や販売、これら乳牛やそのイメージは、地域CI(コーポレート・アイデンティティ)として広く定着しました。


【気象編】

道東における網走地方と釧路地方の境界をつくっています。

実際に暮らしていますと、四季毎日の天候であったり、峠を超えた移動の際など、それらの経験から体感されるものなのですが、わかりやすくご紹介してみます。

 各地域を代表する3地点の気候グラフと北海道の地形図(1981~2010年の平年値より作成)

 

概要として、北海道は太平洋、日本海、オホーツク海の特性の異なる三つの海に囲まれていることや、大雪山系や日高山脈などの地形により、地域によって大きく異なる気候特性を持っています。
 北極や大陸からの寒気の影響を強く受ける冬には、日本海側で曇りや雪の日が多く、釧路などの太平洋側では晴れの日が多くなります。 網走などのオホーツク海側はその中間的な特徴を持っています。
 夏には本州と同様に太平洋高気圧に覆われる時期もありますが、釧路など太平洋側などの海岸部では霧の日が多いのも特徴です。

(1)冬の気候の特徴

 

冬、2月の最低気温の様子です。
道東では網走・釧路地方の沿岸よりも内陸部地方が低いことがわかります。

 

冬、2月の降雪量合計の様子です。
道東では網走地方よりも十勝・釧路・根室地方が少ないことがわかります。

これらは冬型気圧配置による冷たい北西からの季節風や雪を中央高地や山稜などが防いでくれていること、そして太平洋の影響を受けていることなどが考えられます。

夏の気候の特徴

 

春から気温が上がってきますが、低気圧の通過前後には、地形などの影響もあり、網走地方ではフェーン現象が発生して30℃以上を記録することがあります。
全国でもっとも気温が高い日と報道されるのは、この場合です。

(2008年5月1日)

夏にオホーツク海高気圧が現れると、北海道には冷たく湿った空気が流れ込みやすい状況となるため、平年より気温が下がり、 海からの風が直接吹き込むオホーツク海側などでは、低い雲が広がって弱い雨の降りやすい天気となり、農作物の冷害が心配されます。

(図は、2003(平成15)年7月紋別市における観測値)

 

釧路では、年間の霧日数が101.4日で、特に夏の6月、7月、8月は、霧日数の月平年値が16日以上となっています。 これは有人の気象観測所としては日本で最も多く、夏の間は、およそ2日に1度は霧が観測される計算になります。
 釧路の霧は、海上で発生した「海霧」が陸上へと流入したもので、その多くは夏に観測されます。
この点が、農作物栽培期間として、網走地方と大きく異にしていることの一つです。


(3)藻琴山周辺の気温はどうでしょうか?

 

藻琴山稜線から

南北にそれぞれ同距離にあたる

東藻琴(網走地方側・Y1)と

川湯(釧路地方側・Y2)にて

年間の気温測定を行い、それらを比べてみましたので、参考までにご紹介します。
(Y1:海抜57m,Y2:同158m)

 

東藻琴 平均7.2℃ 最高35.7 最低-24.6

 

川湯  平均5.6℃ 最高34.6 最低-29.5

 

(いずれも最高気温観測8月6日14:00,最低気温観測2月4日7:00)

 

通年にわたり、1.5~2℃の差があります。
小さな数字ではありますが、気象分野では大きな差違です。

あくまで参考ですが、いかに藻琴山をはさんで網走地方が農作物の生育等において気象的な優位性があるかわかります。

(観測利用機器:気象庁及び日本気象協会)


つぎの写真は6月、釧路地方側の摩周第1展望台から見た屈斜路カルデラ一面に滞留する朝の雲海です。

一番右奥の、低い、なだらかな稜線が藻琴山です。

この釧路地方からの夏の霧や冷気を、屈斜路カルデラ外輪の藻琴山などが網走地方への流入を少しでも防いでいるとは仮定できないでしょうか。

平成21年6~9月、ガイド業務などもあり、ほぼ毎日、ハイランド小清水725にいたことがあります。

当地から、毎正午において、
屈斜路湖の展望率は、およそ30%、
風雨などの悪天はおよそ30%でした。

 


【高山植物編】

4系統53種もの高山植物が確認されています。 この種数は大雪山における高山植物数のおよそ4分の1を占めます。


【野生動物編】

北海道のみに生息するヒグマ、ナキウサギ、クロテン、シマリスの4種のうち、ナキウサギを除く3種がいます。その他にもエゾシカやエゾユキウサギなども見られます。

 

 ヒグマの足跡でしょうか。

 

登山路にはシマリスが現れることもあります。冬越しをするためなのでしょうか、秋によく見られます。

 

高山性の野鳥、ホシガラスです。
ギンザンマシコもやってきます。

ウグイスも多く、通年、エゾライチョウもいます。

 

特別天然記念物クマゲラが生息していることがわかります。

(痕跡の写真です)


【体験観光編】

四季を通した登山やハイキング、山スキー、ツーリングやサイクリング、マラソン大会、周辺の多くの温泉、道東らしい景観の展望などに優れています。

 

小清水峠の「ハイランド小清水725」からは知床や斜里岳などが一望できます。
施設内では軽食などもいただけます。

旬の農産物やおみやげなども販売されています。

 

例年6月第2日曜日に開催される夏山開きの様子です。

 

平成21年、地域の子どもたちによる植樹活動もはじまりました。

 

銀嶺水は、とても甘くおいしく、登山者たちののどを潤します。

ここまで水だけを汲みに来られる方たちもいます。

ここに平成24年、新しい小屋とバイオトイレが設置されました。

 

天気が良ければ、しっかりした大人が付き添いお子様でもゆっくりと登ることができます。
地域の学校登山なども行われています。

 

頂上です。
環境省による設置標識です。

 

頂上直下の広場で、広大な屈斜路湖を見ながら食べるお弁当は格別です。

(ただし、熊を引き寄せるので残飯や汁物、ゴミなどはかならずお持ち帰りください)

 

世界自然遺産「知床」から昇る朝日です。
手前に日本百名山・斜里岳も望めます。
眼下には釧路(右)側から流れ込む雲海が広がっています。

 

峠道の道道102号線は、とても景観が素晴らしい道路です。

 

もこと山ふきおろしマラソン大会です。
 峠を上手に利用したダウンヒルのハーフマラソンで、10月最終日曜日に開催されます。

2016(平成28)年にて33回を誇ります。

多いときには1000名の参加者がありますが、吹雪に見舞われることもあります。

 

峠からわずかな地帯、冬には樹氷が見られます。
モンスター樹氷の造形たちを求めて、有名カメラマンたちも訪れます。

 

冬山の初心者向けの山として、天候や雪質などが安定しているときには最適です。
山スキーやスノーシューを使います。

ただし、吹雪などのときには道路の峠さえも通行止めになりますので、要注意です。

 

屈斜路湖は冬、結氷します。

御神渡りと呼ばれる現象があります。
近年は温暖化のせいか、規模も小さくなってきている感じがします。

 

屈斜路湖には、謎の怪獣クッシーがいるという噂もあります。

 

ここは砂湯と呼ばれる観光地、屈斜路湖畔は大小さまざまな温泉に恵まれています。

 

藻琴山を登山中、巨大な渦巻き?を湖面に見たことがあります。

 

真冬のコタンの湯。
無料露天風呂です。
手をのばすと凍った湖面、ハクチョウたちがいます。ぜいたくですね。

 

川湯温泉は、日本一の硫黄泉とも呼ばれる有名な温泉地です。
近郊には、硫黄山など見所がたくさんあります。
摩周湖や釧路川源流にも近く、いろいろな自然体験ツアーが用意されています。

また、川湯エコミュージアムセンターもあります。


まとめ

これらのことから、藻琴山は、生活、産業、自然、地域や観光資源などとして、人が受けている恩恵は計り知れず、隣の秀峰である日本百名山・斜里岳や阿寒の山並みに比べると姿に見劣りはしますが、とても大切な山の一つであるということを、ご理解いただけますでしょうか。

 

藻琴山をはじめ山岳地帯、もちろん屈斜路カルデラは悪天の場合が多いです。

気象や大気の特徴を考えれば当然のことですが、山岳地帯の雲霧や降雪は、水の源となり、豊かな河川湖沼群や湿原なども育んでいます。そして通年にわたり、わたしたちにとって貴重な水(淡水・真水)を供給する働きをもっています。
 
藻琴山の頂上稜線からは、屈斜路湖側(釧路地方側・南方向)に水をたらすと、屈斜路湖を経て釧路川、太平洋へと注ぎます。
網走側(北方向)に水をたらすと、藻琴川などを経て、オホーツク海へと旅をする、「道東の分水嶺」でもあり、持続可能な社会づくりにおいて、とても大切なてっぺん、敬うべき原点の一つであると考えています。

 

北海道の道東エリアは広大でダイナミックです。

いま、津別峠展望台からは雲海と朝日ツアーも人気となっています。
藻琴山は、網走地方と釧路地方の人たちが未来へ向けて手を取り合ってゆける可能性をもった、「仲良しのカギ」を握る山域のひとつであるのかも知れません。

 

いつか、釧路地方側からも敬って、地域の人たちとしっかり考えてみたいと思います。