相馬 暁(そうま・さとる)先生

 1941年(昭和16年)生まれ。大阪府出身。北大農学部を経て北大大学院修了。67年、青年海外協力隊員としてラオスに派遣され農業指導。69年に帰国し、道立農業試験場入り。北海道立上川農試、中央農試各場長などを歴任した後、2000年、拓殖大道短大(北海道深川市)の教授に-。

 北海道農業の将来を見つめつつ、人の命をはぐくむ農産物とは、野菜とは何かを問い続け、地球に優しい、人に優しい、作物・家畜に優しい有機農業、クリーン農業を提唱、普及に努めてきました。

 また、長年の取り組みから「食」の重要性を強調。道内だけでなく全国各地を講演で飛び回り、軽妙かつユーモアあふれた語り口で人気があり、テレビ出演も多く、「野菜博士」としても知られていました。著書に「健康・旬を食べる」、「野菜学入門」、「北海道 いま農業が面白い」など多数。

 2005年(平成17年)3月10日、札幌市内の病院で膵臓ガンにて逝去。63才。

 農業技師時代、幾度も勇気とご教示をいただきました。心よりご冥福をお祈り致します。

 

先生が亡くなられて10年以上が過ぎましたが、この展望や考え方は、現在において、どのように捉えられるでしょうか?


 「今,勇気を持って、一歩前に,跳ぼう!」 北海道の農業の展望と方向性 ~天国と地獄,そして地獄からの脱出の道~
 期日:2004年10月2日 会場:北海学園大学  北海道地方自治土曜講座の講演記録より


[現状分析](農業と環境の時代がやってくる)

 まず1番はじめに現状分析ということで私たちは立ち止まって、考えることがあるのではないかと思います。それは、私は私の学生に対していつもこう言います。

「2020年、ススキノで一番モテるのは君たちだ。農業をやっている君たちが一番モテるのだ。変に札幌に就職して銀行員になったって、所詮最後まで上役の顔を見ながらモミ手をするほかない。役所に勤めてごらん。生涯市長の顔、部長、課長の顔色を見ながら生きていかなければならない。こんな馬鹿な人生どこにありますか。」

 その点、農家になれば素晴らしい。

[農業の3K]

 何故か。よく農業は3K産業といって「キツイ、汚い、暗い」と言いますが、これは間違った3Kです。馬鹿なマスコミが言ったことですね。本当の意味からの3Kは、まず青空の下で働く「健康のK」なのですね。そして農を生み出す「感動のK」なのです。さらに自分の人生を自分で決められる「経営者のK」なのです。

だから農業は素晴らしいのです。

それから間違いなく2020年には、農業が輝く時代になるのです。

そうすると、私の話にだまされた学生が家に帰ると、跡継ぎをするのです。富良野からやってきた天馬君が帰って親父さんに「家を継ぐよ!」と言ったら親父さんがびっくりして「どうした?」というから、、、

[農業の時代がやってくる]

親父さんも知っている相馬先生が「農業の時代がやってくる。そしてその頃、ススキノで一番モテるのは俺だ!」と言った。大体私のゼミに来られる人は、あの先生は顔が広いからどこか就職する時に便利だ。でも一人も就職の斡旋をしていません。皆さん農家の後継ぎとして戻しています。

なぜ私はそれまで自信を持って言うかというと、間違いなく2020年には農業の問題です。世界の人口は、どんどん増加して、その人口をカバーするだけの食料を増産することが出来ない。

[食糧生産が出来ない理由](①耕地面積の減少 ②水資源の枯渇 ③農業技術の低下)

その食糧生産をすることの出来ない第一の理由は、耕地面積が減少に転じているからです。例えば、アマゾン流域の開発はワーッと目に付きますが、でもあんなものを凌ぐぐらいの耕地面積が放棄地になっている。

2番目には、水源が枯渇しました。これは耕地の減少にもつながりますが、アメリカロッキー山脈を越えますと素晴らしい穀物地帯が広がっています。あれは地下にあるオガウラ水槽という日本の面積の8倍くらいの面積の地下水層から汲み上げて、それでもって灌漑が成り立っている。これは1950年代には約560万haぐらいの灌漑畑地面積を持っていました。今これが420万haぐらいで、2000年には300万haぐらいに減少しているだろうと言われています。まず、1日にくみ上げる水の量は、3億1000万リットル。それが天然で供給される(雨で供給される)量は2億3100万リットル。ようするに月給で間に合わないから親の資産、これを食い潰しながら農業をやっているのが現状です。水資源の枯渇というのは、隣の中国では、あの黄河が年間4回ほど河口に水が辿り着いていません。そして中央アジアにありましたアラル海を見てください。あの面積が1/3に減少しました。チム川・アム川という川の水が途中で農業用水として使われて、海に流れ着く量が昔の1/4から1/5になった。そのため、海の水がひえあがって、そして40数種類いた魚が全滅しました。それどころか塩害が生じて周辺の耕地を不毛の地に変えつつあります。

こんなふうな水争いが世界中で起きています。

しかも水のことを考えますと世界の水の97%が実は海水です。残りの3%のほとんどが氷河であり、本当に使える真水は限られています。その真水を私たちは必死に奪い合っている。そうなりますと北海道の隠された資源としてこの雨量、しかも雪が8月・9月まで残るということは素晴らしい財産です。だけど世界的には水が足りない。

そうして3番目は、何かというと食糧増産技術、農業技術が低下してしまった。

1950年から60年代にかけて、この時増収割合が40%増収しました。次の10年間で30%、次の10年間で10%、次の10年間で4%、今2%と言われています。4%、2%というのは、ゴミです。1筆の圃場の中でもできの良いところと悪いとことで4%、5%あります。農業試験場とか、そうしたところの人が何%の増収があったと喜んでいますが、あんなのはゴミです。それを農家の生産圃場レベルで考えますと意味ないです。今、農業技術の進歩は、その意味のないレベルになってしまっている。

[食糧問題](豊かになること→餌の増加)

 だがその一方大変な問題が起こりつつあります。それは人が豊かになるということです。これが大変な問題を引き起こしました。昭和35年程から日本は高度成長として、どんどん豊かになりました。10年間でそれまで食べていた鶏の1羽食べていたのを、10年間で8.6羽食べるようになりました。鶏の肉は1キログラムつくるために理論値で2キログラムの餌、今実際は4キログラムの餌を食べさせている。鶏1羽食べるということは、穀物4キログラム食べることに相当する。そして次の10年間で豚肉が5倍増えました。豚肉1キログラムつくるためには、7キログラムの餌が必要です。その後10年間で牛肉が1.2キログラム増えました。牛肉1キログラムつくるために12キログラムの餌が必要です。どうしますか。

[道や国に従ったのは間違いだった]

 日本は豊かになるとともに、道や国は政策として「鶏を飼え、鶏を飼え」と言いました。市町村のみなさんも尖兵となって農家に盛んに鶏を飼わせました。そうして10年経った時その農家はどうなりましたか。10年経った時皆さんが言ったのは「豚を飼え」ですよ。豚肉の方が、栄養価が高いから豚を飼いなさい。そしてまた豚を飼いました。10年経ったら行政は「畜産の中心は牛だ、牛だ」と言いました。道庁も「ヘルシービーフは赤牛のアンガスが良い」と言いました。そして、またこれをまじめに聞いたアンガス組合がどうなりましたか。止めたくたって倒産出来ない、借金が多くて。そしてその組合に聞かれましたよ「私たちどこが間違っていたのでしょうか?」。それは、道や国が「右向け」と言った時に右を向いたのが間違いだったのです。生き残った人たちは、道や国が「右向け」と言った時に、自主判断、自分の判断をした人たちが生き残っているのです。これが農業者の経営責任です。

[農業情報は正しかったのか?]

 いつもうじょうじょすることがあります。「いったい自分は何をやってきたのか。結局私たちがやってきたことは、農民に対して、農家生産者に対して、本当に正しい情報を流していたのだろうか。」時々疑問に思います。皆さんは立派なことをやっていると思いますが、そんなふうにして食糧問題のひとつは人間が豊かになるということです。人間が豊かになるということは、とんでもないことを引き起こすということです。
 中国で1994年に800万トンの穀物を輸出していました。今はどうなりました? ここ5年間で13億人の中国人が1羽食べていた鶏を4羽食べるようになったのです。その結果8億トンの穀物は、もう国内自給は、鶏の餌になってそれでも足りなくて、今2,000万トンの餌を買っています。この人たちが8羽食べたらどうなります。豚肉食べたらどうなります、牛肉食べたらどうなります。そら恐ろしくなります。しかも豊かになるのは日本や中国だけでなく韓国やタイ、マレーシアも豊かになる。そうするとどんどん穀物事情が伸びていきます。黒毛和牛を飼っているところに行ってみてください。夕方になると晩酌にビール2本飲める。ブラッシングもしてもらえる。私なんかは晩酌にビール1本ですよ。現実は、そういう状況ですよ。

[豊かさはべらぼうな穀物需要を引き起こす]

 私たちが豊かになるということは、べらぼうな穀物需要を必要とします。その結果2020年には、レッサーブラウンの推計によりますと、中国だけで2億トンの穀物を必要とします。世界の穀物の総生産量は、16億トンから20億トンです。そのうちの4億トンぐらいが貿易市場(国際貿易市場)に流れています。その半分は中国に流れています。その残りから日本が4,000万トン買います。みんなが奪い合って買います。だからどこの国も、どこの地域も自らの食料を確保することを考えなければ生きられないのです。自国の国民に食糧を安定的に供給出来なければ、国家が成り立たない。いやおうなしに農業を見直さなければならない。

[目の前は地獄]→(地獄からの脱出)

 結局私はいつも言いますが、われわれの目の前は地獄ですよ。しかしこちらに天国は間違いなくあります。そして私たちは、いま現状は地獄です。この地獄がこちらの天国にどうやって上がっていくか、それが今日の私の話です。地獄からの脱出の道です。
 現状が地獄だということをちょっと見ておきましょう。いま北海道の離農率は、年間2,000戸です。67,000戸を切った北海道の農家戸数は、10年経ったら20,000戸以上減ります。これは加速がついてきますから、おそらく40,000戸を切るでしょう。特に私は今、(副知事の)麻田さんに言っているのですが、この台風でだまっていたら来年は離農ラッシュになる。無利子の救済資金を設定して欲しい。そういう話をしています。それぐらい北海道は今、厳しいのです。毎年2,000戸やめていく。その時、新規参入は50戸から100戸です。焼け石に水です。

[寿命の決まっている癌患者]

 まだまだ大丈夫だといっていますが、私と同じに寿命の決まっている癌患者ですよ。私も余命何日と言われている癌患者ですから。だけど十勝だって同じです。考えてみてください。WTOの本会議が妥結した時、輸入枠拡大が絶対使命ですから、農産物の輸入拡大をせざるを得ません。その時に抱き合わせ譲歩などは吹っ飛びます。そうしたら、今、北海道の麦は日粉や日清が買ってくれます。あれは外麦を有利に割り当ててもらうためにいやいややっているのです。何故かというと、外麦を擂(す)ると1回100円で擂れる。道産麦を擂(す)ると150円です。たくさん擂(す)る方が儲かりますが、そうなると抱き合わせ条項が撤廃された時に、大手の生産会社は、北海道麦を買わなくなります。またビートは砂糖が余り現象ですから、今の45万トン体制は35万トン、25万トン体制にせざるを得ないでしょう。そういう現状にあります。今のままの畑作でいくわけがありません。馬鈴薯も2007年に、馬鈴薯に対する関税が0になります。ガットウルグアイラウンドが妥結した時に保護するために200%の関税を掛けましたが、どんどん減少して、2007年は0です。これの引き伸ばしを盛んに確測しているわけです。馬鈴薯現品に対する関税が年0になりましたら、2008年から国産・道産の半値の馬鈴薯が海外から入ってきます。その時に北海道の馬鈴薯は生き残れますか。将来展望も無しに、ただただ浮かれているだけ。北海道全体が、地獄になります。そういう状況を私たちはきちんと見極めなければいけない。

[地獄からの脱出の道](現状を直視する)

 では、地獄からの脱出の道はどうなるのか。一つは、なぜ地獄に落ち込んだかということを直視することです。それは時代の変化、現状の変化を把握出来なかったのです。大体全部寝ていますね。北海道人は一年間の半分は。例えば食糧問題を取り上げた時、こんな問題がありました。表示のことが色々と問題になった時に呼ばれて、消費者と生産者の間に越えがたい溝があることが分かりました。消費者というものは、変な話、農業のことは何も知りません。私が東京の大手の食品会社に頼まれて講演に行きました。その時に北海道の農畜産物を使ってもらいます。春は、名寄の夏井さんところのアスパラガス、秋は帯広の富山さんのキタアカリ。

本物の牛乳の味を知って欲しいと思いまして、ノンホモ牛乳を手配しました。普通の牛乳はホモ牛乳です。ホモジナイズと言いまして、牛乳のバター成分を小さく切っています。ですから昔の牛乳はノンホモ牛乳でしたから、ビンのキャップにバター成分が付いていたものです。ところが私がノンホモ牛乳の話をして30組の親子が料理教室をやります。私の話を聞いている間、子供たちは外で遊んでいます。そして入ってきて一緒に料理作りに取掛かりました。その時、ある子供がこんなことを聞きました。「お母さん、ノンホモって何?」と。お母さんがこう答えました。「馬鹿ね、男同士のことをホモっていうでしょう。これはホモでない、メスの牛乳から搾った牛乳ということよ!」と言ったのです。冗談のきついお母さんだなーと見ておりましたら、その施設の管理栄養士に言わせると本気でそう思っているというのですね。「牛乳と書く以上、オスもメスも乳が搾れると思っているのです」というのですね。「エー!」と思いました。

[指導者の素質](生産現場を知らなくては指導は出来ない)

 帰って来て、その時はまだ中央試験場の場長をしていましたので、全道10箇所の試験所に採用された職員が4月に中央農試に集まって研修を行います。その冒頭で中央農試の場長の訓示があるのですが、私は彼らに紙を1枚渡して「牛の乳房を描いてください」と言いました。「乳に乳首がいくつあるかを描いてください。」とね。「4つですね」。「6つ」とか「2つ」と描く人もいます。4つと答えたのが24人中3人。獣医学部畜産学科を卒業した人たちですよ。北大農学部を卒業してきた人が「6つ」と答えるのですよ。これが今の農学部です。
 こんな人が道庁に入って市町村にいって試験場に行って、どんな農業技術の開発を推進するのでしょうか?。生産現場のことを知らないで何が指導ですか。まず指導を受けるのは本人ではないかと思います。これが現状です。

[農業生産者は大丈夫か?]

 それでは農家生産者は大丈夫かと言いますと、北長沼に坂さんという農家が元気の良い仲間と「夢きらら」という直売所をやっています。ちょっと昨年落ち込みましたが一昨年は4,700万円の売り上げがありました。私はこの話をあちこち行って推奨するのです。いま、北海道全部で180くらいの直売所が出来ました。さあ、出掛けていってスイートコーンやアスパラを寝かせて売っていたら「店をたたみなさい、あなたには売る資格がない!」と怒ります。50本のスイートコーンを一晩横詰めで保管して、あくる日にゆでて37人のお母さんに食べてもらいました。間違いなく37人のお母さん全員が、立てておいたスイートコーンが美味しいと言われました。スイートコーンやアスパラガス、ほうれん草は、地面からスクッと立って育っていますから、それを「立ち型野菜」と言います。風が吹いて倒れましても中学校で学ぶように、向日性、光に向かって立ち上がるのです。だから立ち型野菜を横にすると立ち上がろうと無駄なエネルギーを使うことになります。それが美味しさの成分の糖を使うことになります。スイートコーンを一晩横にして置きますと32%甘味がなくなります。アスパラガス一晩横にして置きますと16%鮮度が落ちます。ところがスーパーを見てください。あこぎなスーパーは平気でアスパラやスイートコーンやほうれん草を横にして売っています。あれはお客様にゴミを売っているのですよ。

[世の中で悪いのは流通][農業生産者も悪い](情報を付けて売る)

 一番世の中で悪いのは流通ですね。彼らは右にある物を左に、左にある物を右に伝達することで生活をたてています。やるべきことをしていない、情報をつないでいないのですね。そうして農家生産者側も悪いですよ。情報化時代と言いながら何の情報を流しているのでしょうか。私はよく言うのです。立ち型野菜は立てて置かないと役に立たなくなる。そうすると西神楽農村では、ほうれん草のフレッシュフィルムにそれをきちんと刷り込みました。買うものは物ではない、情報です。この時代の流れを北海道の人間は掴んでいないのです。自己中心の生き方しか北海道人はやっていない。それでは消費者から見放されるのは当然です。売るものは物ではない。情報を付けて売る。そういうことをどうしてやらないのか。そして何といっても遅い。
 例えば札幌市が朝取りの小松菜に補助金をつけてそして農家と契約してスーパーや八百屋で売っていますが、私はこれをラジオで言ったのですが、朝取りのほうれん草なんて、一番疲れきって栄養価が低いですよ。ほうれん草は、昼間お日様の光を受けて光合成をやって、夕方4時に一番体内のビタミンや糖度が高くなっている。そして、自分の中に蓄えた糖類を使って4から5cm伸びる。夜に稼いでいる。だから朝は疲れているのです。一番価値がなくなっているのです。そうすると、すぐに電話がかかってきて、「あれ、おかしいですよ。私は昔先生に講習を受けたことがあって、実験を手伝って、朝、昼、夕方と分析すると朝取りのトマトが一番おいしかった。ビタミンCやAが多かった。」というのですね。そうです。ぶら下がっている野菜は、これは昼間に光合成で作ったものを商品倉庫である果実に夜運んでいるから、朝が一番充実しているのです。味噌もクソも一緒にしては困ります。

[生半可な知識で行政をやってはいけない]

 生半可な知識を持って行政をやるから、横から見ていて笑いたくなるのです。そういうことをやる時は、やはり専門家に一言相談してください。農業は物を売っているのではなくて、物が持っている特性、情報を売っているのです。そうならなければ駄目です。そして夕取りでないと駄目だと言ったら、群馬県の農協は夕取りほうれん草のデリバリー(配達)を始めました。私は講演に呼ばれて行きました。向こうはびっくりして「それをやります!」と言いました。北海道でいくら言っても誰もやらない。この遅さです。チャンスというのは前垂れでやってくる。通り過ぎてから掴もうとしても無理です。時代の変化、情報を捕まえる。ここに我々は遅れを取っている。

[食生活の5つの「コ」](①郊食化現象 ②孤独 ③個人 ④小さい ⑤誤食)

 次に私たちの食は、もう実に変わってきた。それをどのように捉えるか。例えば現代の食生活は5つの「コ」が隠されていると言います。1つは、「郊食化現象」。郊外の「郊」であります。次に孤独の「孤」、それから個人の「個」、小さな「小」、誤食の「誤」です。これがわれわれ現代人の食生活を制覇している。それをどんなふうに理解し、どのように対応して農産物を流していくか。孤独な食事。みなさんどうでしょう。1ヶ月間に家族全員で夕食を食べる回数は、8回以上あるでしょうか。土曜日・日曜日は家族全員で食べているでしょうか。公務員は特に飲み会が多いですから、東京で調査しますと26.5%です。ところがニューヨークでやるとそれが40%になる。パリでやると60%以上が8回以上家族で食事をしている。日本人の食卓は孤独になりました。そして、バラバラ。同じ食卓についても食べるものがバラバラになりました。ですから、1回に食べる量が少なくなりました。ポッキーの大箱には、4袋、小さな箱で2袋が入っています。いまポッキーの封を切ってもみんなで分け合わないのです。自分だけで食べますから。個袋です。それを知らないで、いまだに農業生産者サイドはたくさん物をやるのがサービスだと思っているのです。

 私の甥が名古屋に行き、名古屋の農家にお世話になりました。それでお世話になったのでと名古屋の息子に名産をちょっと送る。その農家の人は馬鈴薯3箱送りました。20キロ箱ですね。名古屋の温かいマンションですよ。どうします。馬鈴薯は芽がどんどん出る。それで「お裾分け、十勝産馬鈴薯と書いてマンション中にどんどん配って歩け、と言った。翌年また20キロ箱3つ届いた。見かねて私は言いました。「20キロは重過ぎるよ!」そうすると今度は10キロ箱6個送ってくる。量をあげるのがサービスだと思っているのですね。それではだめなのです。そういう話を中小企業同友会の女性部で話をしました。そこで十勝大平原の中塚女将が「その話いただきました!」といって紙袋に「家庭菜園の馬鈴薯」と書いて1キロ、2キロのバラ売りをしたのです。1年経ってバラ売りの1キロ、2キロの方が10キロ、20キロ箱よりも売れる量が多くなった。今は小食です。そうして極め付けが郊外の「郊」食です。私の幼い時には、おにぎりは間違いなく家の中でお袋や姉が握ってくれて、それを持って青空の下で食べました。でも今は、外に買いに行って家の中で食べるようになりました。

 180度変わってしまったのです。そして今、私たちが食べているお米、年間64キロ、その中の23~24キロがもう「ご飯」として売買されています。あと5年したら米で売買されるよりご飯で売買される方が多くなるのです。そういう現実を見ているのですか。そういう現実に米生産農家が、農協が、町村が対応しているのか聞きたいですね。何が厳しいというのか。そういう現実に対応する気力のない、そういう話を4年前に福島県に呼ばれた時にお話をしました。そうして昨年の12月4日再度福島県に呼ばれて行きました。3人の農家の人が迎えに来て、「郡山でどこのお店でも良いですから入ってみてください。そして好きなだけ飲んで食べてください。私たちは、相馬さんに3年前にカツを入れられました。私たちは自分で工場を建てて、米でなくてご飯を売ることをやっています。儲かりますよ!」と言います。考えてみて下さい。米一升100円で売ったとします。ご飯一升100円で売ったとします。これで何倍儲かります。お米一升炊くと2.3倍から2.5倍になります。ここに儲けがあります。その儲けを全部他人様に差し上げながら何を厳しい厳しいというのですか。

[農業法人を育成強化する][米ではなくご飯として売る](ご飯の持っている特性を売る)

 それこそ農家法人を育成強化し、そこでご飯工場を建てさせて、ご飯を売るようなことを考えさせなければ稲作地帯の農家・農協が生き残れるはずがありません。そういうことを考えるのが町村の仕事ではないでしょうか。南空知のあのお米がどうやって生き残るか考えてください。それは、ご飯として売っていくほか考えられない。このあたり私たちはもうちょっと考えないと駄目だと思います。それから農産物の特性を売ると言いましたが、それを具体的な例でお話しましょう。まずお米を売るのではなく、ご飯を売ると言いました。その次に何が起こるかというと、ご飯を売るのではなくて、ご飯の持っている特性を売るということをやっていかないといけない。

九州の鹿児島に紫芋というアントシアン含量を多く含んでいる芋があります。食べても美味くありません。目方も取れません。しかし、これを何とか使えないだろうかと、そして地研センターに持ち込んでこれが人間の健康にどうだろうかとやったのです。そうしたら、そのアントシアンが、間違いなく高血圧や高脂血糖、糖尿病、こういうものに大変良いことが分かったのです。そうすると色々な企業がお金を出し合って共同開発に乗り出した。まず育種でもって新種山紫という芋を作りました。2トンぐらいしか取れなかった山紫が、4トンぐらい取れるようになりました。それを、今度栽培法を改良して5トン取れるようにしました。アントシアン含有量で言いますと、だいたい7~8倍増えました。それを焼酎工場へ持ち込んで焼酎にしました。そうすると焼酎粕にアントシアン粕が残ります。この焼酎粕を使ったのです。アントシアン原料として。焼酎粕1トン投げるのに16,000円の産業廃棄物の処理料が掛かった。それが今、焼酎粕1トンが3,000円~4,000円なのです。さあ、それを使って色々な製品を作りました。北海道でも紫サツマイモを使ったものが出来ています。農産物の売り上げだけで2億円。そしてこの芋を加工してそれの付加価値を計算していくと20億円稼いでいる。これが農産物の特性を知って物を売っていくという成功例です。九州でやれてどうして北海道でやれないのですか。北海道でも色々なものを作っているではありませんか。ヤーコンや韃靼そば。体に良いというだけで、どうやって、どういうふうに良いのかという証明はなされていないのです。そして「俺のところが先だ、いや俺が先だ」という馬鹿な先陣争いをやっている。

[地研センターを造れ][情報を売る情報時代]

 そうではない。私は地研センターを造れと言っているのです。地研センターというのは、そうした物質が、商品が、健康に役立つか、役立たないか、それをボランティアか有料で1ヶ月~2ヶ月食べていただいて、そして健康状態を調べる。アメリカでは株式会社地研センターがあり、どんどんそうしたところで検査しています。そして有効だったものを連邦衛生局が取り上げて登録していきます。そういう制度を作って札幌市が大き過ぎて無理であれば、旭川市でやるといい。旭川市は大学もあるし食品産業も一杯ある。そうして小回りが利きます。32万人の人口ですから。あれくらいのまちで顔の見える環境の中でみんながお金を出し合って、例えば韃靼そばやヤーコンを取り上げて、その特性を考えて、特性を売るようなことをやれないかということなのです。もう韃靼そばを売るような時代ではない。韃靼そばがもっているルチンという機能性を売る時代です。それが情報を売る情報時代という意味です。

[地獄からの脱出の道の前提条件](①時代変化への対応 ②食の安全性)
[消費者との連携が出来るか?]

 従って「地獄からの脱出の道」その前提条件は、時代の変化を捉えて、それに対応するということです。これが第1です。それに私たちは遅れをとりました。
 2番目に「今、食が危ない、食の安全性」を誰が守るのか。この食の安全性が消費者の一番大きな関心事です。ここでもって消費者とどのような提携が出来るか、このことが問われていると思います。例えば日本人は世界で一番の長寿国と言われています。男性の場合78歳、その秘密は日本型の食生活と言われています。その第1のポイントは、豊かになっていくとテーブルの上のご馳走が多くなります。スリランカやバーミアンのような貧しい国は、1,600kcalぐらいしか伸びません。ここでは肥満体がお金持ちの象徴ですから女性にモテるのです。そしてどんどん豊かな国ほど食べる。アイルランドやイギリス、アメリカでは3,600kcalぐらいテーブルの上に乗ります。

健康の第1の敵は肥満と言われています。ところが日本人は豊かになっても2,100kcalぐらいで頭打ちです。それ以上食べられないのです。この食べない、というのが長寿の秘訣だったのです。これはご年配の女性の方、覚えておいて活用してください。何故か、退職してから濡れ落ち葉ですね。そういう亭主を早く片付けるためには、毎日ご馳走攻めにすることです。そうすると早く逝きます。2番目は1日の食事バランスなのです。エネルギーのとり方は、たんぱく質から12、脂肪から30、炭水化物から58、これが理想的なバランスとされています。ところがアメリカ、イギリス、アイルランドでは、脂肪から36~42のエネルギーを摂っています。油の摂取過多です。そうすると心筋梗塞、脳梗塞、そういう血管性の病気で簡単に死んでいくのです。ある日突然ひっくり返ります。狭心症です。日本人は、かって狭心症がほとんどありませんでした。今増えています。何故か、油の摂取量がどんどん増えたからです。このバランスの良さが30年前にあったのです。日本型食生活。この日本型食生活が正に理想の形としてマッチしていました。そこから日本人の食はどんどんずれてきました。当時はたんぱく質1日70グラム必要です。その大部分をお米や豆から摂っていました。それが今は肉が中心です。肉食が年寄りには堪えます。年を取ると魚の方が良いのです。何故か。鶏は41度です。豚の体温は39度です。彼らの体温は、私たちより高いのです。ですから、彼らは体内でスムーズに解けますが私たちの体温は36.6度ですから人間の体内では粘性を帯びる。血液が粘性を帯びると若いうちは良いのですが、年をとると堪えます。こんなふうに日本型食生活はすばらしい知恵が隠されていた。それが、どんどん壊れていっている。

[あるべき食生活は日本型食生活](①日本型農業の必要性 ②食の安全性の見直し)

それでは、私たちは消費者サイドに「あるべき食生活は日本型食生活ですよ」ということを投げ掛けながら、日本型食生活を守るためには、日本型の農業が必要なのだと、こういう攻め方をするべきではないかと思います。その話に移っていきますが、ですからセーフガードでは守っていけるものではない。食の安全性をもっと見てみませんかと。そして、食の安全性というとマクドナルド化に対抗しようとするものです。マクドナルドの上に乗っているゴマの数は120粒です。マクドナルドの製作マニュアルにきちんと120粒と書いてある。あれは世界統一マニュアルで作っています。世界どこでも同じ素材を使っています。世界で一番安いところから買い叩いて農畜産物を世界中に配送して、だからあの安さが出来るのです。では、世界中に農産物を配送するためには、どうしても収穫後の農薬処理、ポストーハーベスターアプリケーションが必要になる。食品添加物が必要になる。そして個々の契約で締結して供給する農産物は、まとまった量を低価格で作らないといけない。どうしても農薬を使わざるを得ない。こうやって現状の大量生産、大量流通、大量消費というものは、化学肥料、農薬、ポストハーベストアプリケーション、こういうものなしでは成り立たないということです。例えば、ミニトマトに農薬処理することを認めています。それを知らないでミニトマトを平気で食べていたら、1年間で5人の人は癌で亡くなっている。これは連邦衛生局で発表されている。何故か。ミニトマトに認められている防腐剤は残念ながら水で洗っても落ちないのです。農薬は油と一緒に摂取すると吸収が2倍になる。こうやって私たちの食の安全性は、基本的なところで崩壊し失われていっている。基本的なところの崩壊とは、大量生産、大量流通、大量消費。これが今の消費流通の主流になっているからです。マクドナルドは強語していますね。8歳までにマクドナルドの味を覚えさせたら、一生マクドナルドから離れられなくなる。「私たちは、アンチテーゼとしてスローフードですから」を唱えるわけです。  

[子供のうちに本物の味を覚えさせよ]

 「子供のうちに本物の味を覚えさせよ!そして、地域、地域の優れた食材、そういうものを子供のうちにきちんと味を覚えさせよ。そしてそのような地域特産物を、ある意味では守るために買い支えよう。」そういうこともスローフードの1つの運動ですね。こうなってきますと、自ずとこれからの農業の前提が決まってきます。

[提言1:クリーン農業の推進]

 それは北海道が推奨しているクリーン農業です。このクリーン農業が農業生産基盤です。環境にやさしい、農薬化学肥料を出来るだけ使わない。そのような生産技術、そうしたもので作ったものが消費者に喜ばれる。安心安全をお届け出来る。そこに私たちは注目しながら特化すべきだと思います。こんなふうにして新しい方向が見えてきた、見えなければいけない。

[意識改革が前提]

 さて、提言の2として、意識改革を前提としての話ですが、農村は変わりません。本当に変わりません。変えようと思えばむなしくなるほど抵抗があります。しかし、このままでは農村は滅びかねない。私はよく言うのです。
昔、栗山町に呼ばれて長期10年計画づくりで呼ばれたことがあります。その時に大田原さんが座長だったのですが、前の時の10年計画を見たら、やはり大田原さんが座長で取りまとめているのですが、あの長期計画は作るのが目的でやるのは目的ではないのですね。達成度なんかは何も点検していないわけです。あんなものはやめたほうが良い。そして私がその時喧嘩したことは、こういうことです。町の人口推定をします。あれ、うそですね。深川市でやった時も「理想人口」を入れました。実際にそうなるとは誰も思っていないわけです。そうではない。例えば長沼町なら長沼町という地域があり、ここに水田が1万haあるとする。この1万haの水田が産業として持続するためには、何戸の農家が必要ですか。今の中規模機械化体制でやると最大限やって20haですよ。そうすると500戸の農家がいないと産業としての農業をやっていけないわけです。この500戸というのが基礎数字なわけです。その500戸の水田農家をどのようにしたら守れるか。そういう計算をしていますか。さらに首長は「活力ある地域社会」と言いますが、活力ある地域社会とはどんなものですか。色々な定義がありますが、山形大学の内藤先生が「ひとつの地域の部落の中で、戸数が35戸切ったら生産組合は崩壊する」と言っています。生産組合が成り立つ35戸を地域の活性化の必要戸数とします。そして、その小さな村で20の部落があったとしますと、35戸×20=700戸の戸数が必要となる。活力ある地域とするならば。私は、地域計画というのは具体的にそうした数字をきちんと積み上げてやっていくべきだと思います。そうして必要な戸数が出てきたら、その必要戸数を維持するために、また足りない戸数が出てきたらその戸数を増やすためにどうするか。そうしたことを考えるべきです。

[作るだけの地域計画は税金の無駄遣い]

 そうしたことが書かれていないと地域計画は単なるゴミであると思います。所詮あれは作ったら終わりの地域計画。あれも税金の無駄遣いですね。もうボチボチきちんと本音で話していくべきだと思います。私は3年間ある小さな村落にお邪魔しました。地域に熱心な広域行政の方がいました。その人に呼ばれて、そしてその人と農家の方3人と話し合いを何度もやって、そして組合長、町長に来ていただいてお話を聞いていただきました。2時間我々は熱心に話しをしました。最後に何を言ったか「あ、ご苦労様」それで終わりですよ。その結果、そこは過疎化、高齢化になっています。

[提言2:農業生産法人が耕地の管理を行い新規就農者を雇用契約で受け入れる]

 今首長さんの責任が問われています。どんどん人口が減少し、地域が崩壊している時に、どの様に責任を取るのでしょうか。何もやっていない。困ったものです。私はだから500戸の水田農家を維持するために、どうしなければいけないのか。そういうことを考えます。すると今のままならば、経営的に行き詰った農家がどんどん出ます。そういう農家を経営力のある農家1軒に、そういう農家3・4軒集めまして、農家生産法人を一斉に育てます。
 そして、農家生産法人がひとつの受け皿になって、そして耕地の管理をやります。そこへ新規就農する人たちが雇用契約で入って農業をやりだす。そういう道を考えるべきだ、というのが私の提言です。

[担い手問題は地域の問題であって道庁の問題ではない]

 一昨年空知地区の皆さんと色々考えまして、担い手問題は地域の問題であって道庁の問題ではない。担い手問題を他人事のように言っている町村がありますが、そんな馬鹿な話はない。あんなのは道庁任せにしておいたらどうなりますか。ある日突然1人か2人に押し付けられて、自ら人口確保することをやっているのでしょうか。

[新規就農サポートセンター]

 私たちは、空知で結集して、新規就農センターを立ち上げました。東京や大阪から北海道で農業をやる人を集めて今11人が、深川市の私の大学にいます。そして地域の農業に4月から10月まで実際に農業やって勉強します。11月~3月までは大学に集まり、新しい農業のあり方を学びます。そういう仕組みを私は色々やっています。担い手問題は地域の問題であって、道庁や国の問題ではない。皆さんがいかにして農家戸数を維持し活力ある地域づくりのために、人を連れてくるかということです。それをやるのが仕事のはずです。
 例えば南空知の南幌町・栗山町・由仁町で豊かな田園都市構想といった協議会を創って勉強をやりました。農地付きの宅地分譲をやろうと。それでもって都会の人々を例えば夏休みや週末に、或いは定年後やってきてもらう。そうした受け皿作りをしてはどうか。こういうことだって一つの方向です。ヨーロッパ(フランス)では、「よみがえる農村」という本の中で、フランスでは1980年まで、どこの地域でも農村人口が減少していました。ところが1980年代以降、ある農村は人口増加に転じたのです。それはかつての過疎地、でもそれは風光明媚なところ。そうしたところに定年退職した人を受け入れた。農地を付けて、そうした一団地を付けて売ったのです。そこへ年金生活をしている人たちがやってきて住み着きました。その人たちを対象とする商店が出来てきました。札幌市の人ですから、子供や友人が遊びに来ています。その人たちを対象として、レストランが出来ました。こうやって地域の人口が17%増えました。地域の振興は何かというと若者はお金を持っておりません。年寄りはお金を持っています。これをどう捕まえるかです。そういうことを考えることです。どうやったら具体的地域が活性化するかをやるべきです。

[農業再編成](①家族経営中心から農業生産法人へ ②マネージャー制度の導入)

 あと30分になりましたので、お話をまとめていきますが、農村の再編成の中で何が問題となっているかと言いますと、まず崩壊していく農村をどうやって再生していくか。その1つが家族経営中心の農業経営から、農家生産法人を中心とした農業経営、そうした経営に変えていくこと。今年の春、私の友人で、帯広の方の富山さんという方が亡くなりました。大変ですね。今年は売られなかった。当主が欠けたら機械を動かせないので家族経営の農家は大変です。その時に4軒くらいで農家生産法人を組織していると、お互いに支えあえますから、そのためにも農家が生産法人を創るべきだと思います。農家生産法人を創ると、他産業からの導入・参入を認めます。そういう人々によって新しい考え方が導入されてくるのです。そして農家生産法人に私は新規就農を目指す私達の学生を雇って欲しいのです。新規就農を目指してやってきた人は、すぐに農家は出来ません。農地を買っていたらパンクしますから。農家生産法人で勉強しながらお金を貯めて、そして地域の人が認めたら、初めて独立させる。そういう意味で、まず農家生産法人を各地で育成すべきです。そして、うれしいことに私たちが研修生を預けました。そこの方々が農家生産法人を創ってくれたわけです。これが1つの突破口です。そしてこれからは、もう耕作権と所有権を分けるべきです。今は耕作権と所得権は一致しますから。そうじゃなくて耕作権を貸すのですね。みんなは借りて規模拡大するわけですね。だから、耕作権を農家生産法人に貸すと、それでも一定の地代を年金のようにいただくことを考える。そうでなければ、マネージャー制度農園を考えていく。

 ニュージーランドでは、1つの農園があります。一番初めに、労働者として雇用されます。ハードワーカーです。そこでベテランになりますと、シニア制度とか何かになって、給料が上がります。それからマネージャーというレベルに上がります。これが農場管理する資格です。そしてオーナーが年を取っていき、もう全体の面倒が見られないという時に、このマネージャーに農地を委託する。その時に1年目の取り分は、マネージャーが1、オーナーが9。年数とともにマネージャーが9、オーナーが1に、段々となる。そうして農地がどんどんマネージャーの管理下になっていく。最後に一部残り、それがオーナーのものとして残る。こうしたやり方で家族経営の農業も残しているのです。農村の方は、自分の生まれたところで死にたいという方が多いのです。現実にはそうではない。そして研修生は、研修に入って非常によく頑張ったから、跡継ぎだと言って良いのですが、お父さんが倒れた時今まで何の手伝いもしてこなかった息子や娘がやってきて、財産権主張して農場が分割されて無くなっていく。そういうことをやるから農場が無くなっていく。このあたりを法律的にもきちんとニュージーランドのように整備していくべきだと思います。

 さて、こんな考え方からマネージャー制度という家族経営の農業、それから農家生産法人、この2本立てでもって、農業を再編しようと支えています。そしてもっと考えを進めますと株式会社も農業参入を認めても良いのではないか、私個人としては思っています。そうしますと独自の視点で販路を開発しますから農業界に新しい風が吹くと思います。野球と同じです。新規参入を認めないような野球は廃れます。だから農業界に参入して良いと言ったから農業に関心を持っている企業はたくさんありますから、そうした企業を呼び込んで行って良いと思います。その上で私たちは地域の中で新規農業を推し進めていくサポートセンターを深川市に創りました。十勝でも道南でも空知でも創りたい。新規就農する人を探して対応していきたい。
 さらに深川市がこの新規就農を目指してやってきた学生に対して、1年間の学費を全額面倒を見てくれています。まだ深川市は、新規就農者を獲得するという確約を決めています。でも、私たちはこの数を20,30,40人とそれぞれ増やしていきたい。そして昨年実際にありましたが、ある町村に希望者が行ったら、その町村に援助体制がありません。それで彼は諦めて帰りました。これは、私たちにとって非常に悔しいです。

[足長おじさん]

そこで「足長おじさん」を呼び掛けました。「新規就農する人に、奨学資金を提供してもらえませんか。」と、5月31日に呼び掛けました。1口5,000円、2口以上の方にはこの研修生が生産した農産物を年の暮れに贈るという仕組みです。どんなところで研修を受けているか。見学ツアーをやりました。そして、都市の方がそこを気に入ったら第2の故郷にしてくださいと、お話しております。

[農村と都市の連携]
[農村を核としたワン・ツー・スリー産業化(1次、2次、3次産業の連携)]

こうやって農村と都市の連携をどうやってやるか、これが今大きな問題だと思います。これが1つの突破口になるのではないかと思います。その上で、最後に農業を核としたワン・ツー・スリー産業化をすることです。
 例えば、先程お米のお話をしました。ご飯にしたら付加価値がつくのではないでしょうか。十勝の鹿追町に西上生産者組合というのがあります。そこでは、そばを作っています。新得そばの名前で売って10,400円です。それをそば粉にしてそばにしました。34,000円です。それを1杯550円で売りました。16万円です。1次産業の農業の生み出す付加価値を1としますと、2次産業でそれが3・4倍になり3次産業で16倍になる。これをみすみす他人様にやっている。10億の農業生産取り扱いです。そこで彼が言ったのです。うちはお客様がいない。人口減少で、だけど現実に、そこは後志地区ですが、この地区では年間2,000万人の交流人口があるのですね。それで一度行くと1人1,040円落としている。お土産代として。2,000万人×1,000円=20億円です。お客様は一杯いるのですね。ただ、その気になってつかむ気がないだけですね。
この近くの長沼町のハーベストという農家レストランがあります。りんご園のオーナーの中野さんが、台風でリンゴが落ちた。落ちリンゴは1箱500円もしませんが、ジュースにして1杯150円で売りますと、十数万円です。これが付加価値作りです。農業を核として地域の加工業と結んで製造加工をやる。そして、地域の商工と結びついて売る。1次、2次、3次が連携する。これが地獄からの脱出の道です。そしてさらに、ワン、ツー、スリー産業化をする時に、北海道は「すごい売り」があります。

[クリーン農業、安心・安全][クラスター]

 「クリーン農業、安心・安全」です。クリーンな農産物をクリーンなまま加工しています。こういうキャッチフレーズで出していこう。その為に、「何も付け足さない、何も差し引かない」そういう技術開発でもって物を製品化しないといけない。そして、1つのものを中心としたクラスター(《花やブドウなどの房の意》同種のものや人の集まり)をつくる。例えば、鹿児島県が紫サツマイモを中心としたクラスターを作って、生成飲料水からお菓子から医薬品まで作ったのです。そういうふうな開発が出来ないか。その為には地研センターをつくって、そこを中心に産業クラスターをつくり進めましょう。新しい農産物の特徴をつかんだら、その特性をフルに使うようなクラスターを創ろうということを考えてみようということです。さらに、今までの通過型観光でなくて、ゆっくり田園の生活を楽しんでもらう滞在型観光として農村は魅力があるところです。そういう意味で農村を都会の人に開設するということをして、滞在型・体験型観光を持つ。こういうことでも我々は、都市との交流を通して新しい価値観をつくり出せるのではないかと思います。
それぞれの地域で是非、農業を核にした産業連関を進めていただきたい。

 

それでは私の話はここで終わらせていただきます。

どうもご清聴ありがとうございました。