高体連山岳競技~応援メッセージ~

古いかも知れませんが、2005年時点の考え方および審査基準、

そして審査員から贈る高校生たちへの応援メッセージをお伝えしたいと思います。

いつから?

 登山が一般スポーツとして国家的に認知されるようになったのは、昭和42年に文部省(当時)が登山研修所を設置し、登山指導者の育成、登山に関する調査研究を行うようになってからだと思われます。
以前までは、各個人の趣味や信仰としての域を脱していなかったのでしょう。
同時に昭和40年前後から高校生を対象にした地区研修会が実施され、その後は競技大会となって現在に至っています。また同時に国体の中でもその種目「踏査」「縦走」「登攀」として登場するようにもなります。

 それらの背景を推測するに、日本山岳会や大学山岳部による海外遠征登山のブーム(ヒマラヤ黄金時代)、高度経済成長期の前半において東京圏から流れ込んだ谷川岳を中心とする遭難事故の多さといった危険回避のために、登山のための基礎知識の習得、組織登山の意義といった登山者への体系的かつ安全な登山を遂行する人材の育成が必要となってきたからです。

エゾノリュウキンカ(通称ヤチブキ)

どうして?

 登山は、一部の単独行を除いては、ほとんどが団体で行われるものです。
つまり各自の自発的意図によって参加し、団体(以下「パーティ」といいます)の指導の下に一員であることを納得の上で成り立っています。この自発的に山に向かうという意志はパーティ行動の最も大切な部分です。

 このような人と人の組織である以上、リーダーとそれに従うメンバーシップが生まれるのは当然と考えます。

 しかし、問題は、この組織は会社などの生業とは別に「運命共同体」であるのです。

まして、登山技術や経験、知識の均一化、個人の個性、志向、年齢、体力、性別、当日の体調や気分など相違があり、いかに多様であるかということを認識せねばいけません。

 山岳は、日常の環境とは異なる危険を含んでいます。
例えば「遭難事故」にあげられるものに、転倒、転落、滑落、落雷、疲労、吹雪、雪崩、凍傷、パーティの分散などの要因があります。

個々の事例の判断は難しいのですが、「もう少し注意したなら避けられたであろう」と結果論で言われてしまうものも少なくないのが現実です。このことはパーティの力量なのですが、登山技術習得や体力の程度に応じた日程や行動範囲を先に定めて、最低力量と不測の事態を想定した周到な準備、心構えが基準となるべきでしょう。

 つまり、登山の安全度とは、そのパーティの持つ力量の範囲内の行動にかかるものが大きいと考えられます。

 

キバナシャクナゲ

どうして?2

 登山とは、行動の終始が自然との関わりを持つものです。
どんな山の、どんなルートを、どんな仲間で、いつ登るのか、といったことです。

パーティや仲間については前述しましたが、この山と気象に対する観察と思考とは、科学的知識を根幹とし、これに技術と経験とを加えたものであり、科学的知識は極め尽くせないにしても、平素の学習と実際との体感の両方を兼ね備えることにより興味を覚えるものでもあります。登ろうとする山の位置、高さ、地形、地質的構造を知っていれば直接役に立つものです。

 また、登山時期の気象の特色や、高さによる気圧や気温の低下、観天望気(空や雲、風をみての気象予測)など趣味としても限りない広がりを持っていますし、食事などの生活、行動における装備など工夫を凝らすほど山では実用的なものとなり、その喜びにもつながるでしょう。これらの知識は経験を重ねると共に技術の習得と相まって登山の内容を豊かにし、安全にします。

もちろん医学的な知識の重要性は言うまでもありません。

 「登山は危険だ」と一般的には冒険的な見方をされますが、もともと登山とは冒険性と安全性の追求の間にあるものだと思います。冒険とは、あえて危険に向かうことであり、積極的であり、また創造的、探求的であります。その中に価値の創造性を見いだすものであります。しかし、表現の自由としてのこの行為は自己責任において厳しい選択を求められるものでもあります。ここで安全性を確保するための筋道、つまり日々の知識習得や経験を積むことといったこと、控えめな気持ち、周到な準備や工夫などを凝らすことにより、その冒険行為は自殺行為と一線を画すわけです。

 このような意味合いからも「訓練や技術習得」といった国家的な研修の必要性を支持しているものだと考えています。

 まして、私たちの日本は国土の80%が山であり、古くから精神風土のひとつです。

また、最近においても自然の示す情意の世界への回帰さえ強く求められ、アウトドアや登山ブームの流れにもあります。

 

コマクサ(高山植物の女王と呼ばれます)

どうして?3

 登山において他スポーツと同様に競技(客観的評価における優劣や審査)が可能となるのは、前述のような根幹があり、その項目は非常に総合的なものとなります。

いずれにしても自己選択における登山行為の意義を明確に持った上で、人間関係(リーダーシップやメンバーシップ、組織上の参加者のあり方)といった基本的な考え方から、山の自然(気象、動物、植物、地学、天文)、地形図、医学や運動生理、登山準備(計画、用具、食糧炊事)、登山技術(歩行や登攀確保理論)など、元来、人が生活する上で必要不可欠な探求心とその実践が試されるわけです。

 

 また、自然の中での行為ですから、その環境への配慮は言うまでもありませんし、挨拶などのマナーも大切になってきます。

 

チングルマ

採点基準

 高体連登山競技は、参加したパーティ(CL「チーフリーダー」、SL「サブリーダー」、3、4の4人)が1チームとなり、複数のパーティと開催期間中の山行において競技をするもので、審査は複数の審査委員が担当します。
 なお、監督(顧問教員)も全日程に参加し、山行でのリタイヤは、そのパーティの失格事項となります。

 採点基準は、大きく「行動」、「生活」、「知識」、「態度」の4つに区分され、100点満点での採点となります。

 

 行動(体力30)

  ・1日目、2日目、3日目の山行に応じて配分
  ・基本的な基準
   リタイヤすればその日の体力点は0点
   隊からの大幅な離脱状態は大幅減点、繰り返しの遅れはその程度に応じて減点する。
   体力不足による歩行の不安定さも減点の対象

   (歩行技術20)

   以下の項目に該当する場合、その程度に応じて減点

  ・足のふらつき、つまずき、スリップ
  ・悪場でのリズムバランス
  ・雪渓での歩行技術
  ・転倒、転落、落石
  ・登り下りの歩幅、リズミカルか 等

 生活(装備10)

   以下の項目において、その程度に応じて減点
   必要な装備を所持しているか、その量は適切か(4点)
 ▼共同装備~テント一式、炊事用具一式、コンロ(含む風防)、燃料、ツェルト、医薬品(体温計)、修理道具、裁縫用具、ラジオ

 ▼個人装備~雨具、防寒具、寝袋、水筒、ヘッドランプ(絶縁処理)、予備電池、タオル(バンダナ)、計画書、記録書、磁石、コンパス、筆記具、呼笛、メインザック(サブザック)、手袋(軍手)、帽子(紐付き)、細引き(6mm×5m)、マッチ(ライター)、ビニル袋、食器、非常食、行動食、ザックカバー
   必要な医薬品を所持しているか、その量は適切か(2点)
   行動中の装備状況は良好か(4点)
   ~ザックのパッキング状態、帽子・手袋(軍手)の使用状況、雨風の対策、靴ひも・スパッツの状況、装備の工夫はあるか

  (設営撤収5)

   以下の項目において、その程度に応じて減点
  ・仕事分担、連携が的確になされているか
  ・設営用具の不備はないか(木槌、ペグ・張り綱の本数)
  ・テント内外の整理整頓の状況は適切か
  ・フライシートとテントの状態は良好か
  ・張り綱とペグの状態は良好か
  (炊事5)

   以下の項目において、その程度に応じて減点
  ・炊事用具(コンロ)の整備状態、使用法
  ・炊事用具(コンロ)の防風対策、安定した状態か、燃料の量
  ・計画書の献立と実際の調理が一致しているか
  ・献立内容が適切か、工夫があるか(調理に要する時間、レトルト食品の量)
  ・その他、残飯、ゴミの量が多すぎないか、衛生状況など
 知識(気象5)

   以下の項目を審査する(参考:1日目16:00 NHKラジオ放送による)
  ・各地の天気図記号が記入されているか(1点)
  ・高気圧、低気圧、前線等の位置にミスはないか(1点)
  ・等圧線が正しく書かれているか(1)
  ・予報が適切か(1)
  ・全体的な完成度(1)

  (計画・記録5)

   計画書(2点)
   必要事項が記入されているか
  ・メンバー表、日程、装備表、食糧計画、緊急連絡、大会地の概念図、医薬品リスト、研究課題をB4版2枚程度にまとめる。見やすさと利用しやすさ
   記録書(3点)
 必要事項が記入されているか
  ・地図上で確認できる地点の記入と通過時刻が正確か、メンバーの様子、天候の状態、地形の特徴、植生、携帯に便利か

 (行動中テスト5)

  以下の項目について審査する

  ・読図、現在地の把握に関すること(3点)

  ・自然に関すること(2点)

 (全行程の中でパーティ全員が1回以上テストされること)

 (行動中にする必然性があることに留意)

 (ペーパーテスト10)~パーティ平均点

  以下のことを中心に出題する
  ・会場の山域について
  ・登山の基本的知識について
  ・研究課題について
  ・地形図、救急法、気象
  (専門的になりすぎないよう留意)

 態度・マナー(5)

  ・登山の基本的マナーを守っているか(就寝時間・集合時間等)
  ・自然保護への配慮(ゴミ処理、動植物の保護等)
  ・パーティとしてのまとまり、リーダーの指導性、言動素行の適切
  ・テント、ザック(カバー含む)、腕章にパーティ名・番号の明記 など

さいごに-

 いままで、登山における競技の背景、必要性、成立要因、そして基準を示してきましたが、高校時代に競技に参加し、その後は審査委員などを務めさせていただいている中で、次のようなメッセージを持っています。

 おそらく高体連レベルでは参加者の山への動機づけが明確になっていない中での競技ですから、審査委員への視線を気にした要領良さの山行になりがちなことも事実です。

それでも教育に詳しい先生たちの学習プログラム的な側面もあるのでしょう。

 現在の高校生、感性豊かな世代の生徒にとって最も必要なことは、安全への希求はもちろんのこと、山を通じた人間関係や人格形成、多様な自然への好奇心・興味の追求につながる動機づけとなる機会なのだと思います。

 実際、自身の登山競技はひとつの目標であって、本来の山の世界を創り上げられたのは、熱意ある2人の顧問先生たちや仲間たちとの一般的な山行や合宿でありましたし、それらの中から植物の名前や登山に必要な知識などを吸収してきました。

 日々の部活動の中で研鑽され、競技は行われるものなのでしょう。

 また、そのような機会から他校生徒との新たな交流も生まれるのでしょう。

 ですから、高体連に登山競技を存在させることそのものには全く否定はしません。

 

 ぼくは、「登山競技のときは競技」、と割り切る考え方をしています。

 まず、勝ち負け以前に「事故やケガ」のないことを願います。
 そして、欲を言うなら、参加した生徒たちがこれからのそれぞれの人生の中で心に残る山行になれば、と思います。



 そして、メッセージは・・・

 山を愛する世界を持った希少な先生たちの、これからもさらなる活躍に期待し、多くの生徒たちがそのような先生との出逢いにより、山でのさまざまな自然や人への興味や好奇心の追求の動機づけが進めば、それぞれの高みへのステップへ-、と応援している一人です。

 そして、高校時代から登山の基礎を習得し、山への想いを抱き、そこから自然と人とのあり方や価値観を見いだす後輩たちが育つことを強く期待しています。

 感性豊かな年頃に仲間と同じ飯を食い、共に寝、自然の中で感動と生活を分かち合う・・・。

 素晴らしいことじゃありませんか!

 ひとつの花の名、星の名ひとつ、飯の炊き方ひとつ、風雨の中つらい重荷にグチをこぼしながらも仲間と共に体感できる、このような青春を駆け抜ける、 少なくとも未知なる可能性や感性を抱く「人」として頼もしい!と、ぼくは思います。

 

 山岳部は、経験のあるOBやガイド有資格者など外部の人材を登用するほど、より安全を最優先に、自然と共に人を育てる部活動です。

長文を最後までお読み下さった全国の現役山岳部の皆さん、心から応援しています。


大会の様子から

2002年5月30日~6月1日
知床硫黄山1563mにて

(北海道北見支部地区大会)

2002年9月12~13日

北大雪・平山1771mにて

(北海道北見支部地区大会新人戦)

2004年5月27~29日

大雪山永山岳2046mにて

(北海道北見支部地区大会)

2005年9月13~14日

斜里岳1547mにて

(北海道北見支部大会新人戦)

大会参加高校数(北海道)

2003年現在 支部大会参加高校

男子

札幌支部12校、函館支部5校、室蘭支部3校、小樽支部0校、南空知支部2校、旭川支部6校、北見支部2校、十勝支部5校、釧根支部2校

計37校

 

女子

札幌支部9校、函館支部3校、室蘭支部3校、小樽支部0校、南空知支部1校、旭川支部1校、北見支部1校、十勝支部2校、釧根支部0校

計20校


国体での扱い

第57回(2002年、高知県開催)には少年種別でも踏査が廃止され縦走とクライミング(登攀から改名)種目のみとなり、さらに第63回(2008年、大分県開催)には縦走が廃止されました。

現在では、リード競技とボルダリング競技をあわせたクライミング種目のみです。

 

2020年東京オリンピックでは、「クライミング」が正式種目となりました。